オタク腐女子のグダグダ日記
Posted by ハシバ - 2008.10.25,Sat
ここからは時系列順に。
イドとフェイ、初めて出会う編。出会うというか、イドがフェイに会いに行きました編。
ゼノギ現代パロ小説。2002年2月初出。7KB。
イドとフェイ、初めて出会う編。出会うというか、イドがフェイに会いに行きました編。
ゼノギ現代パロ小説。2002年2月初出。7KB。
彼と始めて会ったのは、晩秋だった。
「木枯らし1号」が吹くとか吹かないとか、そんな話題がニュースに挙がる時期で、確かにその日は寒かった。
日が暮れると更に気温が下がって、寒さが直接骨に染みるような感覚に、俺は震えながら歩いていた。
両手をジャンパーのポケットに突っ込み、ファスナを一番上まで引き上げ、身体を縮めて俺は歩いていた。首元がすぅすぅと寒くて、マフラーをしてこなかった事を後悔していた。
自宅のあるマンションに着き、エントランスの横にある郵便受け部屋に入る。幾多の住人が使っているだろうこの部屋だが、何故かあまり人に出会うことは少なかった。
しかし、その日は先客が居た。
お世辞にも広いとは言えないその一角に、黒い背中。
黒のロングコートを着た男。
いや、最初はそんな風には思わなかった。背中に長い髪が垂れて、コートの黒の効果もあったのか、それは驚くほど紅かった。その不吉な色の組み合わせに、俺は『魔女』を連想した。
一瞬ドキッとして、息を飲んだ。その気配を感じたのだろう、背中が僅かに振り向いた。
真っ直ぐに、射る視線。
あまりに不躾な視線が、真っ直ぐに俺を射竦めた。敵意も何もない、真っ直ぐに鋭い視線。
蛇の髪を持つというメドゥサの双眸は、きっとこれと同じに違いない。俺は彼の視線の中で動けずに、石と同じになって、思考だけでなく呼吸すら止まってしまった。
呪縛が解けたのは、彼が動いたからだった。彼は郵便受けの1つに指を差し入れていたらしく、引いた身体の影からそれが見えた。引き抜かれた指に、白い封筒が薄く挟まれていた。
その時でさえ、俺はまだぼんやりとしていた。そして、その郵便受けが俺の家のものであるという事に気付いて、ようやく時間が正常に動き出した。
――誰だろう。
やっと、そういう思考に行き着く。
――誰だろう。この男は誰だろう?
沈黙を破ったのは、彼が先だった。
「お前、『フェイ』だろ」
静かな声だった。今まで、聞いた事のない声だった。
彼は、俺が「フェイ」であるという返事を待たず、むしろ俺が「フェイ」であると最初から知っていたかのように、その白い封筒を俺の方に向けた。封筒は一部が妙な形に膨らんでいて、厚みのある、小さな物が入っている事を窺わせた。
「お前のお袋に渡してやってくれ」
彼はそう言うと、封筒を真っ直ぐ差し出した。腕を伸ばせば届く距離にある封筒と、少し離れた場所に立つ彼と。俺は交互に見つめた。
母はもう死んでいる。
その事を知らない彼は、一体誰なのか。
何を持ってきたのか。
疑問が頭をぐるぐると回って、俺はその封筒を見つめたままでいた。固まったままの俺をどう思ったのか、彼は腕を伸ばしたままこう言った。
「親父の骨だよ」
そして封筒をかすかに揺らしたので、俺は一瞬それが落ちたような錯覚を起こして、両手で押さえるように封筒を握り込んでしまった。受け取ってから彼の言葉が脳に届いて、思わず俺は封筒を手放しそうになった。
「お・親父って、ほね、って。なにが?」
変にどもってしまって、言いたい事が言えなかった。彼は俺の反応を予想していたように、両手をポケットに入れると、つまらなそうに応えた。
「親父が死んだんだよ。それは、親父の遺骨。
いけ好かない男だったかも知れねぇけど、お袋に渡してやってくれ。嫌だってなら、お前が砕いて川にでも流してやれ。息子なんだからよ」
そう言うと、彼はそのまま俺の脇をすり抜けていこうとした。俺は咄嗟に、その腕を掴んだ。その行動に、彼は不審な視線を俺に投げかけた。
俺は彼の腕を掴んだものの、どうしたらいいか分からずに戸惑っていた。帰らせてはいけない、ただそれだけを思ったが、それからどうしたらいいか分からなかった。俺は、ひどく動揺していた。
「なんだ?」
腕を掴んだままの俺に、彼はそう尋ねた。俺は首を横に振った。どうしたらいいか分からなかった。
「……動かない」
俺の手は、コートの下の彼の腕をガッチリと掴んでいた。
「離れないんだ、動かない」
声が震えるのが、自分でも分かった。
手は、腕を掴んだ形で固まってしまっていた。彼の腕に指が食い込んでしまってる感触はあった。コートの生地は厚いとはいえ、きっと痛いに違いない。そう思うのに、どうしても指の力が抜けない。
焦って、腕を引いた。手は彼の腕を掴んだままで、彼の身体まで引っ張られた。途端に彼は眉を顰めて、引かれた腕を引っ張り返した。
そしてそのまま、エントランスまで俺を引き摺るようにして歩き出したので、俺はますます焦ってしまった。
「ごめん、わざとじゃないんだ、ごめん。引っ張らないで!」
言うと、彼はピタリと立ち止まった。
しかし俺には一瞥もくれず、掴まれていない方の手でポケットを弄ると、開封された煙草を1箱取り出した。そして、箱を俺の目の前で軽く揺すり、中の煙草のフィルタと視線を俺に向けた。
「吸うか?」
俺は、煙草の方ではなく彼を見つめて、首を横に振った。
「俺、吸わないんだ」
彼はまたそっぽを向いて、「そう」と小さく呟いた。
彼は吸うのだろうと思ったのに彼は煙草をポケットに仕舞い、俺に腕を掴まれたまま、また歩き出した。
あまりに無頓着に歩くので、俺は自然と彼の腕を引いてしまい、「痛くないのだろうか」と彼の腕を心配した。なるべく引っ張らないようにと早く歩いたが、歩調が合わず、くっ付きすぎたり離れすぎたりした。
彼は俺の手を引いて(という言い方は正しくないが)、外の自販機の前まで連れていった。
その間、彼は1度も俺を窺ったり、気遣ったりしなかった。
彼はそのままの態度で懐から小銭を取り出すと、ホットの缶コーヒーを買い、片手で器用にフルトップを上げるとニ、三口飲んだ。
まるで無視されて、俺は自分がここにいないような気がした。
俺は空気になって、この青年の近くにたまたま居るだけなのだと。そんな心地で、俺は彼の横顔を見つめていた。
彼はふと、風景でも見遣るように俺の方に振り向き、缶コーヒーを差し出した。
「ほら」
声をかけられて、俺は差し出された缶を、自然に受け取った。
俺は、左手で封筒を、右手で彼の腕を握り締めていた。缶を受け取ったのは、彼に近い方の手――右手だった。
「……離れた」
ポツリと呟くと、彼は掴まれていた腕を軽く振った。
そして、さっき仕舞ったばかりの煙草を取り出して、ライターで火をつけた。二、三回煙を吸い込んで、ふぅ、と暗い空を仰いだ。その横顔に、俺の口からスルリと言葉が零れた。
「あんた、誰?」
その言葉に、彼は初めて俺がそこに居た事に気付いたような顔をして、まじまじと俺を見つめた。
「俺が、誰かって?」
「なんで親父の骨なんか? あんた、親父の何なんだ? だいたい、本当にこの…… 骨は、俺の親父なのか?」
彼はむしろ、なんでそんな質問が出るんだという顔をしていた。
不思議なものを見る目で俺を眺め、念を押すようにゆっくりと話し始めた。
「自分に、兄貴がいるのは知ってるよな?」
――兄貴?
俺は、首を横に振った。彼は眉を顰めた。
「親父とお袋で、兄弟を1人ずつ引き取ったんだ。……知らないのか?」
「知らない。そんなの、知らない」
まるで責めるかのような口調に、俺は慌てて応えた。言葉は思いのほか強く響いて、それが気に入らなかったのか、彼は更に眉を顰めた。そんな彼を見て、俺は迂闊な事をしたと思った。
彼は俺の顔をじいっと見つめて(俺は自分が、時刻表か時計になったような心地がした)、そして「次のバスは1時間後」という事を確認したかのように、盛大な溜息をついた。
その溜息で、俺はやっと、彼が『誰』であるかが分かった。
でも彼は煙草を踵で踏み潰すと、両手をポケットに入れ、背を向けて歩き出してしまっていた。「拒絶された」、そう思うより先に、その背中を追った。
「待てよ!」
声に、背中が少し振り向いた。俺は、更に叫んだ。
「待ってくれよ、兄さ……」
言葉は、最後まで言えなかった。
唇に冷たい物が押し当てられていた。
それが彼の掌であると気付くと同時に、それは離れた。
「また、明日来る。夜の8時」
彼は再び手をポケットに突っ込むと、簡潔に言った。
「俺の名前はイド。また来る」
彼――イドはそう言って、今度こそ歩いて行ってしまった。振り向きもしなかった。
俺は、無言でその背中を見送っていた。
イドの指から香った煙草の煙の匂いが、ずっと脳裏から離れなかった。
――――――――
イドはフェイがあまりに叔父さんに似てたので、一発でフェイだと分かった という裏設定がありました。
イドは散々、叔父さんにそっくりだそっくりだと言われ続けて、むしろ叔父さんの子なんじゃないかとまで言われたことがあるので、フェイが叔父さんにそっくりの顔をしてたことに驚いたし、ちょっと嬉しくもあったのでした。
2002/02/16
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