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オタク腐女子のグダグダ日記
Posted by - 2024.05.19,Sun
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Posted by ハシバ - 2008.10.25,Sat
1999年7月に書いたゼノギの現代パロ小説。10KB。
この頃はまだイドとフェイの現代パロ設定が確立していなかったらしく、後の連作とは微妙に設定が違います。

こんな話を書いていたこと自体を忘れていたので、本気で驚きました。
この話に出てくる表現にデジャヴを覚えたのも驚愕の一因。ああ、私、この前書いた小説でも同じ表現使ってた! という。
三つ子の魂百まで、とはよく言ったものです。

真夏のお葬式の話。


 


 


 夏というのは、それだけで暑く、眩しく、音に満ちている。
 喧騒と白日の夏。
 足元に濃く、沈黙を落として。
 
 首筋にじっとりとした汗を感じながら、フェイは軽く伏せていた顔を起こした。室内は程よくクーラーが効いていたが、さっきまで暑い戸外にいたせいで、なかなか汗は引かなかった。
 沈痛な面持ちをした人達が、一人一人立ち上がっては焼香を済ます。黒い人の群の中には自分の見知った人もいるだろうに、不思議にその中から見付ける事が出来なかった。まるで他人の葬式に紛れ込んでしまったような余所余所しさを感じながら、フェイは隣の叔父に低く言った。
「……兄を、探してきた方がいいですよね」
「そうだな。悪いが行ってくれ。……家の中には、いるだろうから」
 同じく低く応えた叔父の言葉を受けて、フェイは周りに目配せしながら席を立つ。
 素早く部屋を抜ける。廊下はすでにクーラーの領域から外れていたが、線香の香りが薄まった分だけ息は楽になった。慣れないネクタイは首に苦しく、フェイはそれをわずかに緩めて息を吐いた。
 階段を昇りかけた所から台所を伺うと、奥から話し声がした。複数のおばさんの声。一息ついて世間話でもしているのだろう、高く低く響いてくる声に苦笑しながら階段を昇る。
 階段を昇りきった所の窓は大きく開かれていた。白く発光するような日差しに誘われるまま、フェイはそこから外を眺めた。
 窓からの眺めは盛夏そのものだった。
 昼下がりの日差しは厳しく、すべてが発光しているようだった。揺らぐ陽炎、濃い影に縁取られる鮮やかな緑、響いてくる蝉の声。
 
――小さい頃見ていたのと、同じ景色だ……
 
 夏というのは、不思議と過去を懐古させる。
 学校のプール、灼けたアスファルト。冷たいスイカに麦茶、アイスクリーム。
 懐古の合間の一瞬に暑さと音が遠のいて、フェイはハッとする。
 思わず泳がせた視線の先、廊下の突き当たりは子供部屋だった。
 白熱の照り返しを背後に残してフェイは廊下を奥に進む。フェイには不思議な確信があった。
 ドアを開けると、涼しい風が通り抜けた。眩しい戸外に比べて、そこは涼やかな影が差している。
 フェイは高校から下宿していた。たまに家に戻った時に入る事はあっても、ここ数年はまったくこの部屋に立ち入っていなかった。
 二段ベッド、2つ並んだ机に椅子。典型的な、2人兄弟の子供部屋。持ち主のないまま時の流れが止まったように、その部屋は静寂を守っていた。
 開かれた窓の近く、もう一人のこの部屋の持ち主が、デスクチャアを軋ませて振り返った。
「相変わらず、ここは風の通りがいいな」
 不意に訪れたフェイに驚く様子もなく、薄い笑いを浮かべて言う。スーツの上着は座っている椅子の背に掛けて、窮屈なネクタイは外していた。腕まくりした腕と、わずかに開いた襟元にくつろいだ様子が見れた。
 家を出たといってもたまには戻ってきていたフェイとは違って、彼にとってこの部屋は本当に久しぶりなのに違いなかった。しかし普段からそこにいるかのように、たたずまいも、部屋の雰囲気も、不思議に馴染んでいた。
 この部屋と同じように、フェイにとっても彼は久しぶりだった。思い出の姿より大人びて、落ち着いた雰囲気を身にまとっている。面影は確かに重なるのに、まるで他人と対面しているような居心地の悪さを感じながら、彼にとって自分もそのように見えているのだろうかと、フェイは不意に思った。
 フェイは通り抜ける風を感じながら、それを遮るようにドアを静かに閉めた。
「……駄目じゃないか、葬式の途中で抜けたりして」
「お前こそ。喪主が抜けちゃ、マズイだろ」
「俺は兄さんを探しに来たんだよ。……兄さんだって、喪主じゃないか……」
「誰が『兄さん』だよ」
 ギィ、と椅子が軋んだ。
「お前だってよく知ってるくせに」
 侮蔑するような顔をして言い捨てた。フェイはそれ以上その顔を見ている事が出来ずに、軽く顔を伏せる。ちくちくと刺すような沈黙が、部屋の中に落ちた。
 この部屋で、本物の兄弟よろしく過ごした時期もあったはずなのに。
 嘘の弁明をしているような罪悪感に苛まれながら、一言一言噛むようにフェイは呟いた。
「……今でも、兄弟のつもりでいるよ。俺は」
「俺は思ってない」
「イド!」
 堪らずフェイは叫んだ。
「……そんな事言うな。父さん達に悪い」
 フェイの言葉に、イドは馬鹿にしたように鼻を鳴らす。これ以上話を聞く気はない、とでも言うように上着を持って立ち上がった。
 フェイはドアの前で身を強張らせた。
「ちゃんとネクタイを締めて、上着を着ろ。ちゃんと式に出て、父さんを見送れよ」
 強がりながらも、毅然と言い放ったフェイをイドは真正面から睨み付けた。
「どけよ」
「父さんの最後ぐらい見送ってやれよ、兄さん」
 イドの眸に、怒りが疾る。乱暴に押しやったフェイの肩が、ガタンとドアにぶつかった。
「誰が『兄さん』だ」
 そのまま襟首を掴み押されて、フェイはグッと息を詰まらせた。
「何も知らないくせに、知ったような口を利くな! 『最後』だと思って来てやったんだ、もう義理分は十分果たした。俺は帰る」
 言ってイドは手を放す。フェイを眼光で威圧しながら、イドはドアノブに手を伸ばした。
「駄目だ、帰るな」
 強情に立塞がるフェイに、イドは苛々と舌打ちした。どけ、ともう一度イドが言っても、フェイはイドを見据えたまま動かなかった。
「行くな、イド。血は薄くっても、お前は俺の兄さんなんだ」
 かち合う視線に、不意にイドは痛みを感じたように目を細めた。
「俺は、お前の兄さんじゃない」
 イドは静かにそう言う。
 分かってる、そう言うかわりに、フェイは口の中でもう一度、イド、と小さく呟いてみた。見つめた眸、その奥に潜んでいた険が途端に薄れた。そうやって改めて見てみると、その表情は思い出の中の兄のものとぴったり重なった。
 自分より薄い色素を持つ兄の姿を、真正面からじっと見つめてみる。
 白い、というより血の気の薄い肌。光が差すと琥珀のように透ける、茶色い眸。
 記憶のものより幾分落ち着いた色の髪は、もしかしたら色を加えているのかも知れない。幼い頃は、本当に紅かった。
 元々が紅かった細い髪は、その細さゆえに先端に行くほど鬼灯<ほおずき>の実のような赤みを増した。フェイ自身の髪も真っ黒ではなく、幾分赤みを帯びていたのだが、イドの髪ははっきりと紅かった。
 それが不思議で、フェイはよくイドの髪を手にとって日に透かしたり、羨ましがったりしていた。
 本物の兄弟だと、疑いも持たなかったあの頃。
 あの頃から、随分長い時間が流れたような気がした。こんなに近く、お互いの顔を見つめ合う事すら酷く久しぶりだった。
 イドの唇が、躊躇うように動いた。言いかけて留まった言葉は、自分の名前だったように思えた。フェイには不思議な確信があった。
 溜め息を吐くような柔らかさで、イドの顔が軽く伏せられた。手が伸びて、フェイの二の腕に触れる。不意に縮まった距離に気付くと同時に、イドの額がフェイの肩に触れた。
 イドの髪が頬を掠めて、汗の匂いが鼻腔に届いた。イドの匂いはこんな物だったかと、記憶を懸命に探ってみる。でも思い出す事は出来なかった。
 夏のスーツの生地は確かに薄手なのだと、フェイは見当違いの感心をしていた。イドの触れた部分が、確実に熱かった。目の前の男が、確かに熱を持った生き物なのだという事にフェイはわずかな違和感を覚えた。そしてそう思う事で、イドを人間として見ていなかったように思えて、フェイは心の奥で動揺した。
 押さえられた二の腕はそのままに、躊躇いがちにイドの身体に触ってみる。シャツの袖越しに、腕に軽く触れた。汗を吸ったワイシャツは風に冷えていたが、その下の皮膚は確かに生き物の体温を持っていた。
 
――イド。
 
 言葉は咽喉に引っ掛かって、声にはならなかった。
 不思議な切なさが、フェイの胸に満ちていた。イドの体温を暑く感じなかったわけではなかったが、それを振りほどく気にはなれなかった。
 腕の中の、熱い身体。
「……フェイ」
 低く呟かれて、フェイは思わずイドの肘を掴む。顔を上げたイドの近い眸が、フェイを覗き込んだ。
「元気で」
 その一言で、フェイは動けなくなってしまった。イドが優しい仕草でフェイの肩を除け、ドアノブに手を掛けても、フェイはただそれを見ている事しか出来なかった。
 
――行ってしまう。
 
 イドはフェイを伺うことなく部屋を出る。止めなければ、止めなければと心の中で繰り返しても、フェイは動く事が出来なかった。
 階段を降りる音が響いて来る。階段を降りたすぐ先は玄関だ。イドは躊躇いもせずに、そのまま外に出てしまうだろう。そして……
 
――きっと、もう会えない。
 
 弾かれたようにフェイは部屋を飛び出した。玄関のドアの閉まる音、フェイは2階の窓から外を見下ろした。
 昼下がりの殺人的な日差しが、すべてを焦がしていた。
 白いシャツの背中が、蝉時雨の中を歩いていく。鬼灯のような紅が白日の下で鮮やかに揺れていた。目を刺すような、紅。
 それすら遠ざかっていく。振り向きもせずに。
 
――名前を呼べば、振り向くかもしれない。
 
 そう思った途端に、言いようのない悲しみがフェイを襲った。
 イドの言う通りに、自分は何も知らないのだろう。でも、決して知ろうとしなかった訳ではなかった。むしろ知りたかった。教えて欲しかった。
 例えば、フェイは自分自身の感情――不安や焦燥や悲しみ、寂しさや弱さや憤りといった物――を、理解してもらうための言葉を用意していた。理解して欲しかったから。
 でもイドにそれを打ち明けるような機会に恵まれる事はなく、フェイ自身も打ち明けようという気になれないまま、こうやってすれ違っていくのだ。
 イドには、フェイの言葉を聞いてやろう、フェイを理解してやろうという気持ちが足りなかった。そしてフェイには、そういうイドの態度を押し退けてまで理解させようという勇気が足りなかった。
 言葉を尽くせば、フェイはイドに理解してもらえると思っていた。
 でも、伝える勇気がなかった。
 フェイが予め言葉を用意したように、イドがフェイに対して言葉を用意しているとはとても思えなかった。イドは言葉をあまり大切にしなかったし、それ以上に、フェイとの相互理解を求めているようには思えなかったからだ。
 それはイドが特別にフェイをないがしろにしている、という事でもなさそうだったが、それでもフェイを落胆させるには十分すぎる態度だった。
 イドはもしかしたら自分を、弟として、家族として、人間としてすら見ていてはくれないのかと。言葉を交わす事すら許されないのかと、そう思いもした。
 
――知らなかったんだ……
 
 同じ国の言葉を使っていても、伝わらない何か。伝えられない何かがあるなんて。
 あの頃のフェイは知らなかった。今日まで知らなかった。あの時まで。
 腕の中の、熱い身体。
 あの熱い身体は、何かを伝えて来たのに。イドの何か。フェイがずっと知りたかった何かを。
 
 油蝉の声が、二重三重になって耳に届く。フェイは逃げ水に揺れる背中を、目を細めて見遣った。
 喧騒と白日の中。
 足元に濃く、沈黙を落として。
 
――それでも……
 
 それでも『言葉』が欲しかったと。フェイは痛む眸を閉じてそう思った。
 
 
 心に焦げて、消えない言葉を。



 


――――――――
設定がまだ確立していなかったとはいえ、イドとフェイの父親は死ぬことと、叔父さんがいること、イドとフェイは本当は兄弟ではないこと等は既に決まっていたようです。


1999/7/17
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