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オタク腐女子のグダグダ日記
Posted by - 2024.05.19,Sun
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Posted by ハシバ - 2008.10.25,Sat
「なるべく性行為の含まれていないものをチョイスします」と言った舌の根も乾かぬうちにアレな小説。やることはやってますが、エロくはないと思います。
ゼノギの現代パロ小説。珍しく、イドとフェイは兄弟ではなく他人。1999年7月初出。9KB。

この話よりも続編のほうが面白い(私見)ので、続編のために載せます。しかしその続編、後味の悪さは更に倍です。
この話を書いたとき、まさしく「ムシャクシャしてやった」という気分だったので、それがひたすら懐かしいです。若かったなー(笑)

別れたイドとフェイが4年後に再会して、焼けぼっくいに火をつける話。

 




 


 午後の太陽が、ビルの間に挟まれていた。
 最近のビルはやけに反射率が高くて、光が目に染みるほど眩しかった。
 早く青にないかと、幾重にも重なる人の肩越しに信号を睨んでみる。車通りの多い道路に掛かった信号は、なかなか変わりそうにもなかった。
 せめて少しでも眩しくない所はないかと動いた拍子に、隣の肩にぶつかった。しまった、と上げた視線の先に懐かしい顔があった。
「……イド?」
 名を呼ぶと、横顔がこちらを振り返った。眸に浮かぶ驚きの色に、フェイの心は不意に乱れた。
「フェイ、か?」
 掛けられた声は、記憶の中のそれのままだった。静かに沈む低めの声が、フェイにしか解らないニュアンスで耳に響く。
 変わっていない。
 伸ばしているだけで紅くなるから、と長くしている髪。虹彩が透けているのかと思うほど茶色い、琥珀のような眸。色彩の抜けた白い膚。そして、その不器用な表情……。
 あぁ、4年前とちっとも変っていないんだ、そう思うと、フェイの胸に懐かしさが溢れてジンと鳴った。……同時に、ズボンの真ん中も。
 ここが天下の往来でなかったなら、フェイはすぐにでもイドに抱き着いて、その唇に噛み付くようなキスをしていた事だろう。
 嵐のように蘇る激情を穏やかな笑みで隠して、フェイは世間話をふった。
「最近、どう?」
 信号が青になったが、イドは全くそれに構わずに応えた。
「どうも何も……相変わらずの生活してるぜ?」
「何して食ってるんだって事」
「イロイロ。人間一人食ってくぐらいなら、なんとかなるもんだって。……お前は会社?」
「そ。とりあえず毎日会社行って仕事して……それっぽいだろ」
「スーツがそれっぽい」
「着てる物なら、イドだってそうだろ。プーっぽいぜ?」
「うるせー」
 言葉とは裏腹に、イドは可笑しそうに微笑んだ。ふ、と向けられた眸。その中の感情を問う前に、イドの指が前髪に触れた。
「……髪、切ったんだな。分からなかった」
 わずかに前髪を引かれたが、フェイはそれを咎めず笑って見せた。
「ああ。あの頃は、意地というか……なんかに取り付かれてたから」
「もう、髪の長い女とばかり付き合ってる訳でもないんだな」
 亡霊の正体を知るイドの言葉を、無視してフェイは続けた。
「……まだ、あのマンションに住んでるのか?」
 そしてチラリと見遣った目の、その意味を汲み取ったのだろう。指を離して、イドはニヤッと笑った。
「いいぜ、来いよ」
 
 
 玄関のドアの閉まる音より早く、フェイはイドと唇を合わせていた。唇の熱、吐息のタイミング、回された腕の強さ、身体の固さ……忘れていたものの多さにフェイは離れていた年月を思う。反応をいちいち確認するのは新鮮で、その中には知らないものも含まれていたが、覚えているものの多さにもフェイはひっそりと感嘆した。
 絡ませた舌に香る、記憶とは違う煙草の匂いにうっとりしながら、フェイは引き千切るようにネクタイを外す。縺れるように倒れ込んだベッドの上で、上着を近くの椅子に放り投げる。シャツの間から忍び込むイドの手、乾いた固い指先が確信を持ってフェイの膚をなぞる。
 仰け反った咽喉に這わされる舌の熱。圧し掛かる身体の重さ。
 クリームの載った指の奇妙な冷たさ。捻じ込まれるペニスの固さ。
 内壁が擦られる衝撃に背筋が震えて、フェイはイドを掻き寄せる。掴んだ肩の、かすかにめり込んだ爪を責めるようにイドが膚に歯を食い込ませる。ジワッと広がる痛みに、フェイの視界は快感で紅く眩んだ。
 押し上げられるように肺に満ちる、甘く濃密な空気に噎せ喘ぐと、紅が雫になって目から零れ落ちた。それを掬うように頬に触れたイドの唇の奥から舌が這い出て、目尻を舐め上げる。
 舌先が眼球を掠めて、それに食い付かれる想像がフェイの脳裏に浮かんだ。どうせなら自分がその舌を食い千切ってやりたいと、そう思いながらフェイはイドの舌に噛み付いた。
 揺さぶられるまま、抉られるままに喘ぎ声を上げ身体をしならせて、絞り上げるように絶頂に達する。温んだ身体はそれでもまだ快感を、イドを求めて戦慄いた。
 何年もの間、ずっと忘れていたこの恍惚。腹の底が焦げるように疼くこの感覚。
――どうして忘れていられたんだろう。俺のカラダはずっと、ずっとイドを欲しがっていたのに。
 髪の綺麗なあの娘でも、首の細いあの娘でも、唇の可愛いあの娘でも駄目だった。誰とでも味わえなかった、この快楽。
――忘れられるもんか。忘れられなかった、……忘れていなかった……
 抱き合う身体の固さに胸が熱くなる。
 フェイが欲していたのは、細い、柔らかい、華奢な身体ではない。
――俺が欲しかったのは、固いカラダ。固いユビ、固いペニス。
 分かっていたのに、どうして俺は一度もイドを訪ねなかったんだろう。
 イドはずっと、このマンションにいたのに。
 なんで別れたんだろう。
 こんなに、俺はイドの事が好きだったのに……。
 
 
 別れたのは、酷く寒い日だった。
 荷物を詰め込んだ指がかじかんで震えて、その度に目から涙が零れたので、それだけはよく覚えていた。
 出て行くんだ、出て行くんだと言い聞かせて、イドの熱を思い出せば涙が溢れて止まらなくて、それが余計に悔しくてフェイはただひたすら鳴咽した。
 あの頃はもう、毎日が辛くて仕方なかった。
 身体も心も疲れ切って、毎日のように喧嘩をして殴り合って、最後には滅茶苦茶なセックスをした。それが死ぬほど気持ち良くて、ベッドではいつも泣き叫んでいた。
 朝が来れば、また同じ事の繰り返し。もう、どうしようもなかった。
 知り合ってから約1年。肉体関係は、半年にも満たなかった。
 
――俺は、俺が可哀想で仕方なかったんだ……
 自分の傷を見るのが嫌で、一生懸命になって自分に嘘を吐いていた。嘘に嘘を重ねるうちに、自分でも真実が見えなくなっていた。
 ただひたすら寒くて、寒くて仕方なかった。縋れる物があるなら、必死になって縋った。
 それがイドだった。
 フェイは自分の事で手一杯で、イドの事まで考える余裕はなかった。
 自分ばかりが寒くて寂しいと、それしか考えてなかった。そしてイドも、フェイが相手を思い遣る事なんて出来ないと知っていた。
 イドはフェイの嘘を暴かなかった。嘘に溺れて、それで縋り付かれているのだと知りながら、それでもイドはその嘘を許したのだ。
 フェイはそれをイドの優しさだと思っていた。……実際、それは優しさだった事には違いないのだけども。
――イドも寂しかったんだ。周りの見えなくなった俺を利用するくらいに。それぐらい、イドは寒がっていた。でも俺は、それには気付けなかった……
 結局俺達は、お互いにお互いを利用して寂しさの埋め合わせをしていたんだ。寒さに身を寄せる仔猫のように、俺達はお互いの体温を求めていた。
 
 今思うと、なんて愚かで……純粋だったんだろう。
 
 
 薄く埃の積もった床が夕陽を受けて金色に輝いていた。日に焼けたスクリーン、散らかった雑誌。何もかもがあの日と変わらないようでいで、何かが徹底的に違っている。
 それは部屋の空気の中に含まれる、『自分』の量なのかも知れない、そうフェイは思った。
 快楽の残滓を燃やしているかのような煙草の火を、フェイはベッドの上で見つめる。立ち昇る紫煙は夕陽に溶けて、空気の流れのない部屋の中で溶けてくすんだ。
 胸に回された白い腕を気遣いながら背後を見遣ると、イドはフェイの隣でまどろんでいた。柔らかい光のせいか、酷く穏やかに見える顔を眺めていると、イドはあの頃とちっとも変っていないんだと改めて感じられた。
――待っていたんだ、俺を。
 いや、イドは待っていた訳じゃないだろう、そうフェイは思い直す。けれど待っていたのだ。流れる時の中で、時の流れにまかせるままに、化石のように埋まっていた。
 なんて悲しい。どんなに昔のカタチを留めていても、それはもう過去のものなのに。
 自分は変わった。イドから逃げ出したあの日から。
 心の底に積もった澱にもがきながら、あの日のフェイはそこから抜け出す術を必死に捜していた。そして、フェイはイドを踏みつけて這い出したのだ。……そこにイドを残して。
 フェイはイドを使い捨てたのだ。
 それだけの犠牲が払われて、どうして変わらずにいられるだろうか。
 
 灰皿に短くなった煙草を捻じ込み、フェイは今付き合っている彼女の事を不意に思い出した。彼女の面影は、不思議なくらい遠く霞んでいた。
――俺が男に抱かれてよがるような奴と知ったら、どうするんだろう……
 不潔だとなじられるか、いや、その前に泣かれてしまうかも知れない。そんな想像した途端に、イドに抉られた腹の底、身体の奥がズキッと疼いた。
――罪悪感と嫌悪感で感じるなんて、俺もちっとも変ってない。
 そう思った途端、フェイは自分の考えに吹き出しそうになった。
 認めてしまえばなんて楽なんだろう。自分は普通の人間だと、まともな人間だと思い込もうとしていた日々の、なんて辛かった事。
 フェイはゆっくりと微笑む。
 自分自身のカラダのため、……快楽のためになら。
 イドの寂しさも、自分に対する『愛』も犠牲に出来る。フェイはそう思った。


 


1999/7/7
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