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オタク腐女子のグダグダ日記
Posted by - 2024.05.19,Sun
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Posted by ハシバ - 2008.11.09,Sun
ゼノギ現代パロ小説。2002年8月初出(多分)。5KB。
時系列順その4。イドとフェイがバスに乗ってお出かけしました。




 空は青く澄んで、日差しは眩しく強い。今日も気温が上がりそうだ。
 私鉄の駅から乗ったバスは、午前の遅い時間帯という事もあってか、乗客が驚くほど少ない。クーラーをかけているのかいないのか、あちこちの窓が半端に開けられていた。
 座席はほとんどガラ空き、しかも一人で乗り込んだ客ばかりで、それぞれが狭い席に座って無言のまま外を見やっている。
 俺はフェイと二人で一番後ろの席に腰掛けている。

 バスに乗った時、俺は特に座る気もなかった。天井の低い車内、手近な吊革に掴まろうとした途端、フェイに手を引かれた。
 「イド、」
 彼は俺の人差し指と中指を握り、バスの後部へと誘った。その力はあまりに軽く、俺が立ち止まっただけでも指は解けそうだった。それが逆に惜しく感じられて、俺はそのまま彼に従った。
 彼は俺の指を握ったまま後部座席の窓際に座り、俺はその隣に腰を下ろした。
 それから、ずっとそのまま。
 俺とフェイの間、シートの上、手は繋がったままだった。
 繋がっているといっても、俺の手のひらの上に彼の手のひらが乗っているだけで、むしろ重なっているといった方が近い。手のひら一枚ぶんの重さと、肌一枚ぶんの体温。
 フェイはずっと、窓の外を見ている。特に話をするでもなく、ずっと黙ったままだ。
 俺も、彼に話しかけようとは思わなかった。車の揺れと、エンジンの音と。機械的な声色のアナウンスに耳を傾けて、それ以上の事は何も思わなかった。
 言葉を交わしもしない、そっぽを向いて外を見やる男と、ぼうっと車内を眺める男が、その間で手を繋いでいるなんて一体誰が思うだろう。乗客は、誰一人として気付いていない。気付くわけがない。下手をすると、手を繋いでいる本人達でさえ、その事を忘れてしまいそうだ。
 車の振動で手がずれる。戻す。思い出したように指先が皮膚を弄る。そんな些細な動作で相手を思い出す、その程度だ。
 フェイの手のひらはからりと乾いて、指先は却って乾きすぎて固い。俺達は体温が近いのか、手を繋いでいても、熱いとか冷たいとか感じる事はない。温かいと思うだけだ。
 でも、俺は知っている。
 彼の手のひらが、熱を帯びる瞬間。
 それは彼の身体が生きているからで、内側と外側の環境に身体が反応しているというだけのことだ。それ以上でも以下でもない。
 でも、その熱はあまりに鮮やかだ。
 まさに燃え上がるような熱さで、それに触れられると、焼印を押されたような気分になる。
 俺は、その熱を知っている。

 普段、バスになんて乗る機会がないせいか、どうしても余所事ばかりが頭の中を駆け巡る。
 連れて行ってくれよ、そう言ったのはフェイだ。
 一緒に行こうよ。そうだな、今度の土曜日にでも。その日なら、イドも空いてるだろ? 挨拶だけ、1度くらいは。
 くだらない、そう思った。

 ぐるりと見渡した車内、電車よりもバスの方が『他人』の雰囲気が強いように思える。運転手を含め、乗客すべてが他人だという事実。鮮やかな孤独感。
 そんな中でフェイと手を繋いでいる。
 「うみ、」
 フェイが不意に呟いた。
 「川かな」
 それは呼びかけではなく、独り言に近かった。小さな溜息をついた彼は、先程と変わった様子もなく外を眺めている。
 ただ、彼の手のひらが。
 俺は乗せているだけだった彼の手を、くっと握った。彼は少し驚いた様子で――もしかしたら、俺がいた事に初めて気付いたのかもしれない――俺を振り返った。
 陽光の差し込んだ虹彩が、琥珀のように透けている。薄い瞼が瞬いて、その下の黒い瞳孔がくるりと俺を見すえた。
 見透かすようで、そのくせ拒んでいるような瞳の色に、俺はいつも幼子や野生動物を連想する。馴れ合う事を知らない本能の色。
 「もう少しだよ」
 言ってやると、フェイはどこか安堵したように眼差しを和ませた。
 「降りる時は言ってくれよ」
 俺が頷いて応えると、彼はまた窓の外に目をやった。
 横顔は相変わらず涼しいままで、俺は彼の手のひらを不思議に思った。
 彼が窓の外に見たのが、海だろうが川だろうが、なんであれ構わない。記憶の廃墟でも、亡霊の面影であっても構わない。
 彼の心なんて分からない。彼が何を見て、何に傷付くかなんて、俺には分からない。ただ、手のひらが熱いと感じるだけ。それだけだ。
 感情の起伏を、顔よりも手のひらに現すフェイ。だから俺は、そのさざなみごと彼の熱を握っていたいと思う。
 相変わらず、フェイは外を眺めている。何事もない顔をして、シートの上に置かれた俺の手を、強い力で握っている。
 彼の視線の先、窓の外を見やる。いつの間にか視界が開けて、眼下に海が青く見えた。薄く開いた窓から、乾いた風が吹き込む。
 もう、秋は近い。



---------
お父さんの墓参りに2人で行ったのです。


2002/8/24
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