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オタク腐女子のグダグダ日記
Posted by - 2024.05.19,Sun
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Posted by ハシバ - 2008.11.09,Sun
ゼノギ現代パロ小説。2002年8月初出(多分)。9KB。
時系列順その3。イドが見た夢の話。
この話はお気に入りで、何度かブログ等で救済したことがあるので、目にしたことのある人は多いかも知れない。



01.

 いつの間にか、俺は濡れ縁に腰掛けていた。
 そこは叔父の家だった。
 叔父の家は小高い丘を登る坂の途中にあり、まわりは雑木林に囲まれていた。むしろ、雑木林に埋もれていると言った方が近い。手入れがまったく行き届いておらず、庭は荒れ放題で、家も廃屋さながらの様相を呈していた。
 古い平屋に、二度、三度と増築が加えられたらしいその家は、外から見てとても人が住んでいるようには見えなかったし、屋内に入ってみてもそうは思えなかった。
 実際、叔父の家は地元では有名な『お化け屋敷』であるらしい。過去何度か『肝試し』を称して不法侵入する輩がいたそうで、叔父はそいつらを『とても愉快な方法で追い出した』そうだ。叔父の言う『愉快』がどれだけ愉快から程遠いものか、容易に想像がつくだけに、その方法については問い質したくないところだ。
 夏は暑く、冬は寒く、環境としては劣悪な場所だった。
 でも俺は、叔父の家が好きだった。
 どことなく斜めに傾いだ叔父の家は、道に面した玄関には板が打ち付けられて使えなくなっている。だからいつも庭に回って、縁側から家に出入りしていた。
 そこに俺は座っていた。
 庭の草は高く茂り、細い蔓が幾重にも巻き付いた物干し台も草に埋もれそうになっている。それでも林に比べれば多少拓けて、日差しも射している。
 しかし、むぅっとした植物の気配は、空気をじっとりと重くしていた。
 植物は喋りもしないし、鳴きもしないが、とてもうるさい生き物なのだ。
 俺はただ、縁側に座り込んだまま、ぼうっとしていた。何故そんな所に腰掛けているのか、今日は何日なのか、今は何時なのか、そういった事は何一つ気にならなかった。暑くも寒くもなかった。明るいか暗いかも分からなかった。
 「イド」
 不意に呼ばれ、声のした方を見やる。さっきまで誰も居なかった庭の中ほど、背の高い草の間にフェイが立っていた。彼は俺が振り向いたのを見とめると、草いきれの中をガサガサと歩いてきた。
 海にでも行ってきたかのように日に焼けていて、秀でた額はふっくらと丸かった。薄い瞼の下に不自然なほど大きな黒い瞳が収まっている。狭い肩から棒っきれのような腕が伸びて、半ズボンから覗く脚すら折れそうに細かった。
 5歳くらいの子供だった。
 それで俺は、あぁ、これは夢だなと思い当たった。
 思ってみれば、この濡れ縁だって、俺が12の時に腐って落ちたんじゃなかったか。そうだ、だからここに林檎の木箱を置いたんじゃないか。
 俺はそう思いながら、幼いフェイが俺の隣に腰掛けるのを見ていた。
 縁側は泥の付いた靴のまま上がるせいで、土が幾重にもこびり付いていた。普段のフェイなら、絶対にこんな所に座りはしないだろうと俺は思った。
 「ここが、イドのウチ」
 子供らしい甲高い声で、そのくせ似合わない無関心さで、フェイは庭に目を向けたままそう言った。俺は、そうだ、と答えた。
 「おじさんに、あいたいの?」
 フェイは俺を見上げてそう言った。
 俺はその黒々とした瞳を見て、少し答えに迷い、それから答えた。
 「お前に会わせたかった」
 フェイは「そう」と小さく呟いて、また庭に顔を向け、三和土に届かない足をぶらつかせた。足は裸足で、庭の土で黒く汚れていた。
 ここは叔父の家で、それなのに叔父はいなかった。

 母親がいなくなったのが5歳だという話だから、俺はその頃に叔父の家に転がり込んだのだろう。そして俺は義務教育が終わるまで、叔父と一緒にこの家で暮らしていた。
 叔父はまったく変わった男だったが、俺は叔父が嫌いではなかった。俺は、父親のことは嫌いだった。どうしても反りが合わなかった。
 父親の葬式の後、俺は叔父と一緒にこの家に帰った。叔父は不気味なほど大人しく参列していて、その態度は叔父にしては不審すぎて、俺は彼を訝しく思っていた。
 そんな俺に、叔父は1つの紙包みを差し出した。
 「骨だよ」
 父親の遺骨である事は容易に知れた。火葬の際、親族が鉄の箸で骨を1つずつつまみ、壷に入れるという儀式があった。きっとその時に失敬してきたのだろう。
 袖の中に骨を落とす叔父の姿を想像して、その悪趣味さに鼻白みつつも、まったくそれを咎める気にはなれなかった。叔父なら、やりかねなかった。ただ、どうしてそんな事をしたかが分からなかった。
 弟の骨など、欲しがる人には見えなかった。
 そんな俺の気持ちを察したのか、叔父は「俺じゃない」と言った。
 「欲しがる奴が、いるだろうが。要らんと言ったら捨てればいい」
 そう言いながら、放ったらかしのガラクタの間から手帳を取り出し、挟んであった紙切れを俺に手渡した。紙は、手帳からはみ出していた部分が変色していた。
 「母親に会って来い。ついでに、弟にもな」

 実際のところ、既に母親は死んでいたので弟にしか会えなかった。
 その報告をしようと叔父の家を訪ねたが、そこに叔父の姿はなかった。家の空気は淀んでいて、しばらく人の出入りがなかったのが知れた。
 また例の放浪癖が出たかとその日は素直に帰ったが、1週間、1ヶ月、半年が経っても叔父が家に帰った様子はなかった。
 叔父は叔父なりに、自分の兄弟の死にショックを受けていたのかも知れなかった。
 心の知れない人だったから、もしかしたら違う理由でいなくなったのかも知れなかった。いつ帰ってくるかも分からなかった。それがまた、叔父らしいとも思った。

 縁側の下へぶらぶらと揺れる子供の足は、驚くほど細く、小さかった。普段、頑丈すぎるほど健康的なフェイの身体を見慣れているだけに、却って目の前の子供が小さく見えた。
 フェイは、こんなに小さかっただろうか?
 「……おじさんってどんな人」
 何の気もなしにフェイが尋ねてきた。
 「変わり者だよ」
 俺は衒いなしに答え、そして尋ねた。「会いたかったか?」
 フェイは微かに眉を寄せて「わかんない」と答えた。それはそうだ、と思った。フェイにとって叔父は、見た事も聞いた事もない人間なのだ。
 「お父さんはどんな人?」
 フェイの言葉に、少しの期待を俺は嗅ぎ取った。
 「会いたかったか?」
 「イドは?」
 フェイは俺の問いに答えず、そのまま訊き返してきた。俺は子供特有の、丸くつやつやとしたその顔に答えた。
 「もう、会いたくはねぇな」
 「そう」
 フェイはそう応えると、縁側に立ちあがった。そして、俺が彼を振り返る間もなく、家の中に入ってしまった。子供の汗の匂いが、鼻を掠めた。
 天井の低い和室は畳が上げられて、汚れた板間になっていた。土足で上がって良いのはここまでで、続く台所で靴を履き替えるのが常だった。
 フェイは裸足のままで、薄暗い10畳ほどの板間に立っていた。
 「母さんはね、」フェイは背を向けたままで言った。「母さんは、やさしい人だったよ」
 「それだけか?」
 訊くと、フェイは振り返った。
 「それだけ」
 言われて、俺は他にどんな事を言って欲しかったのだろうと、逆に自分を訝しく思った。
 フェイの母親は確かに俺の母親でもある。でも、フェイの母親であって、俺の母親ではない。俺に母親はいない。
 「会いたいか?」
 俺の言葉にフェイは少し考えるような仕草をして、しかし、すっぱりと「もう、あいたくない」と言い放った。
 「イドは?」
 俺は少しだけ考えて、「俺も会いたくはない」と答えた。
 真っ直ぐ俺を見据えたフェイの黒い瞳が、くるりと動いた。
 「うそだ」
 俺は目を瞬いて、目の前の子供を見つめながら心の中でごちた。
 このガキが。夢の中でも、お前は嫌な奴だ。


02.

 「なに、イド?」
 向かいに座ったフェイが、訝しげな表情でそう言った。俺はずっと彼の顔を凝視していたらしい。
 「悪い、ぼうっとしてた」
 言って、スプーンを口に運んだ。今日の夕飯のメニューはカレーライス。
 フェイは口の内側を噛んだ所に染みて仕方ない、と零しながらカレーを食べていた。でも彼が口の中を傷付けたのは昨日のことで、それは自分でも分かっていたのだろうに、そのカレーを作ったのは他ならぬ彼なのだ。
 食べたかったんだから仕方ないだろ、と眉を顰めた彼は、それもきっと辛いカレーが食べたかったのだろう、水を飲みながらじゃないと食べれないようなカレーを作って、それでさっきからヒィヒィと言っている。
 俺は、そんな彼が額に汗をかいているのを見ながら、今朝見た夢を思い出していたのだった。
 実を言うと、俺には幼いフェイの記憶はなかった。
 だから、夢の中とはいえ、彼が鮮明な姿で動き回っていたのには違和感を覚える。
 俺の覚えていないフェイ。
 あれは、本当に彼だったのだろうか。
 ただ単に、俺が今までに見た子供の記憶が作り出した、概念の姿だったのだろうか。
 「フェイ、」
 不意に呼びかけると、彼は視線だけを上げて俺を見た。
 「お前は、小さいころどんな子供だった?」
 フェイは訝しげに俺を見やり、スプーンを下ろすと、困惑した様子で言った。
 「どんな、って。自分がどうだったなんて、分からないよ。そういうのは、周りで見てた人に訊かないと」
 そう言ったフェイは、どこかつまらなそうにカレーを口に運んだ。
 「でも、だからって、どうって事はないよ。面白い事なんて何もない、普通の子供さ、普通の」
 何がどう『普通』なのか。よく分からないが、フェイは少し機嫌を損ねたように食事を続けた。彼は、自分の事は話したい事だけ話して、後は決して明かさない。
 特に、母親の話はあまりしたがらなかった。
 「……お袋は、どんな人だった?」
 だから、俺が敢えてその話をするのが意外だったのかも知れない。フェイは皿に残ったルゥを掬い、口に含むと、唸りながら宙に視線を泳がせた。
 「難しい。よく分からない」
 彼は水をごくごくと飲んで、更に「うーん」と唸った。
 「優しい、人だったのは確かかもしれないけど」
 俺は瞬間ドキリとして、フェイの顔を見つめた。彼は俺の様子を気にする事なく、スプーンの柄を弄んでいた。
 まだ何かを考えている風な彼に、俺は更に問い掛けた。
 「……もし、会えるなら。会いたいと思うか?」
 フェイはまた「うーん」と唸った。しかしすぐに、「会いたいよ」と言った。気負いも何もない、普段通りの口調だった。
 「会えるなら、会いたいよ。会えないけど」
 言って、ちらりと俺を見た。
 「イドだって、会いたいだろ?」
 瞬いた黒い瞳に、既視感を覚える。何も言えず、言葉を詰まらせている間にフェイは続けた。
 「父さんに、会いたいと思うだろ?」
 なんだ、そっちか。
 俺はそう思って、少し安心した。しかし瞬間、なんで安心するんだとも思う。夢に振りまわされるなんて。
 「別に、会いたいなんて思わねぇよ」
 言うと、フェイの視線がバチリと俺を見据えた。黒目の中の光が、くるりと回ったような気がした。
 「嘘だ」
 その言葉に俺は何も返せず、ただ黙るしかなかった。
 畜生。やっぱり現実のお前の方が、ずっと嫌な奴だ。



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蛇足ですが、度々出てくる『叔父さん』はラカンです。
イドはラカン叔父さんに似ていると周りから散々言われていて自分でもそう思っていたんだけど、フェイと出会って、フェイの方が叔父さんにソックリだったので驚いたのでした。
まぁ、それもそのはず、フェイの本当の父親はラカン叔父さんだからなんですけど。
ラカン叔父さんはライターだか小説家だか、そんな仕事をしています。どっちだったか(私が)忘れました。家も何個か持ってて、どこも平屋のボロ屋なんですが、基本的にはどの家にも定住していません。だから、イドのいた期間だけでも上記の家に定住していたのは、叔父さんなりの愛情だったのかも知れません。
ちなみに、フラフラしてるラカン叔父さんを一発で捕まえる方法が1つだけあります。叔父さんには古い友人がいて、その人に連絡を取ればいつでも叔父さんの居場所が分かるのです。
その人の名はカレルレンといいます。
イドはあまりこの人が好きではないので、極力関わりたくないと思っています。けど、いざとなったらこの人に頼らざるを得ないんだろうなーということは分かっています。
ちなみに、イドの本当の母親ともカレルレンは知り合いです。イドは、そのことは知りません。



2002/8/19
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