忍者ブログ
オタク腐女子のグダグダ日記
Posted by - 2024.11.22,Fri
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

Posted by ハシバ - 2008.07.29,Tue
テキスト放出シリーズ(?)第2弾。FF12の現代パラレル。
バッシュがヴァンと初詣に行く話。

FF12コンテンツに載せたままだと思ってたんですが、いつの間にか下げてたみたいですね。うーん、過去の自分の行動原理がよく分かりません。




 正月も、三が日を過ぎてしまえばお仕舞いと言えるのかも知れない。
 年賀状はもう来ないし、テレビの正月特番も終わり、電車のダイヤも通常に戻っている。かく言うバッシュも既に仕事は始まっているのだが、カレンダーの関係上、1日だけ出勤して3連休に入ってしまった。正月気分から脱するのは、なかなか難しい。
 そして、先ほどからバッシュの頭の片隅を支配しているのが、その『正月気分』という単語なのだ。
 正月。
 正月とは一体なんだろう。
 新しい年が明けたことに対する祝日。正月はめでたいことだ。では何故、めでたいのか。そもそも、何がめでたいのか。
 バッシュは新年を悲観しているわけではない。ただ不思議に思うだけだ。


 連休の中日。同居人である弟は平日と変わらず働きに出ている。つまり、バッシュはひとりだった。
 弟と休日がずれるのは珍しいことではない。ひとりで過ごす休日も。けれどバッシュは、どこか自分を持て余していた。妙に人恋しいとでもいうのだろうか。可笑しなことだと、バッシュは自身を訝しく思った。
 そんなとき、ヴァンがバッシュを訪ねてきたのだった。
 インターホンに呼ばれ玄関のドアを開けると、そこにはヴァンが一人で立っていた。
 ヴァンとバッシュは20近く歳は離れていたが、なかなか気の合う友人だった。そもそもヴァンは友人が多く、その年齢も職も様々であったから、もしかしたらバッシュはものの数にも入っていなかったのかもしれない。けれどバッシュにとって、ヴァンは得がたい友人だった。
 まるで小学生が友人を誘いに来るように、ヴァンはバッシュを訪ねてくる。
 「初詣行こ」
 青いスカジャンのポケットに両手を突っ込み、風を防ぐためか、鼻までぐるぐる巻きにしたマフラーの下、ヴァンはバッシュを見上げてそう言った。そう言ったらしいのだが、実のところ、最初は何を言ったのかバッシュには分からなかった。バッシュはそのマフラーを顎まで引き下げ、もう一度同じことを言ってもらった。
 「バッシュ。初詣に行こう」
 寒風に晒されたらしい赤く冷たい頬。指先で感じたその感触に反論を思いつく間もなく、バッシュはすぐに頷いた。


 近所の小さな稲荷神社。今年に入って、ここに来るのは3度目だ。
 新年が明けて初めて社寺に参詣するのを初詣というなら、それこそ、バッシュの初詣はヴァンと一緒だった。彼の親愛なる幼馴染のパンネロと3人で、この小さな神社を詣でたのだ。そのときでさえ、ヴァンは既に『2度目』の初詣だったらしい。
 境内の玉砂利を踏みしめながらヴァンは言う。
 「もうオレ、5回か6回くらいかなぁ。トマジとー、カイツにフィロにパンネロにミゲロさん、兄さんとも行ったし。ハチマンさまに、ジョーラクジ」
 八幡宮に常楽寺。舌足らずなヴァンの言葉を、バッシュは頭の中で組み立て直す。
 「でも、同じトコに、同じ人と来るのは初めて」
 屈託のない笑顔に、バッシュもつられて笑みを零す。「私もだ」、そう伝えると、ヴァンはまるで悪戯の共謀者のように笑った。
 三が日が過ぎ、詣でる参拝客もいないのだろう。臨時に置かれていた屋型テントの社務所は片付けられ、境内は普段どおりの静けさを取り戻していた。ただ、注連縄だけが真新しく、鳥居に下がっている。
 新年。正月。
 そう思いながら、社の庇から垂れ下がる紅白の紐に手を伸ばす。すると、横から手が伸びて先にそれを掴んだ。隣を窺うと、してやったり、とでも言いたげなヴァンの顔がある。微笑んで紐を譲った。
 ヴァンが紐を大きく揺らす。頭上の鈴がガラガラと鳴る。紐から手を離したヴァンが大きく柏手を打った。
 「カナイアンゼン、ショーバイハンジョー!」
 高らかに叫び、グッと両手を合わせる。厳かさとは程遠い、しかし力強いその参拝にあっけに取られていると、薄目を開けたヴァンに無言で促された。そっと手を合わせ、目を閉じる。
 バッシュの1度目の初詣は、ヴァンと一緒だった。そして、3度目も。
 2度目の初詣は、弟のノアと一緒だった。


 最初の初詣、ヴァンによって「初詣は何度行ってもいい」と気付かされたバッシュは、会社帰りのノアを誘ってこの神社を詣でることにした。
 思いついてすぐ、バッシュはノアに電話をかけた。留守録に入れたバッシュのメッセージを聞いて折り返してきたノアは難色を示したが、駅まで迎えに来たバッシュの姿を見てすべてを悟ったらしい。バッシュは「どうしても」、弟と初詣に行くつもりなのだと。
 実際バッシュは、3度までは根気よくノアを誘うつもりでいた。兄の強情さを知る弟は無駄な労力を省くため、素直に従うしかなかったのだろう。
 紅白の提灯が温かく照らす境内は、夜のせいか、1度目の初詣のときよりもずっと人が少なかった。
 電話口での態度から、バッシュはノアが社寺への参拝を嫌悪しているように思っていた。彼は仏教徒ではないし、神道の信徒でもなかった。母はクリスチャンだったが、彼自身はキリスト教徒でもなかった。
 でももし彼が結婚することになれば、式は教会で挙げることになるだろう。葬式も然り。バッシュはそう思っている。
 社の前で、ノアは鈴の紐には触れもせず(彼は潔癖症なのだ)、そっと手を合わせると二度、柏手を打った。
 強く叩いたわけでもないのに、その音は、凛と響きながら社の中に吸い込まれていった。ノアはじっと手を合わせたまま社の格子戸の中を見据え、一度も目を閉じなかった。
 その毅然とした態度に、ノアが「ひどく居心地が悪い」と思っていることが分かった。彼は、窮地に立たされるほど勇猛になる。
 ノアは神に会うのを畏れ、参拝を嫌がったのだ。
 こんな小さな神社であっても、神は宿るのだとノアは信じている。彼は神を畏れている。だから来たくなかったのだ。
 今更のようにそれに気付き、バッシュは弟を不思議に思った。
 バッシュは仏教徒ではないし、神道の信徒でもない。クリスチャンでもない。それだけならノアと同じことだ。でも、バッシュとノアは違う。バッシュはノアとは違って、本当に神を信じていないのだ。
 信じていないから、畏れもない。だから不思議に思う。弟の中にある恐怖。バッシュにとって世の中が不思議なことで溢れているように、ノアの世界は恐怖で溢れている。
 それを思うと、バッシュは弟が心から誇らしくなる。
 恐怖を知り、それを克服できるのは勇敢な人間だ。臆病であるがゆえの勇気、畏れを知るがゆえの大胆。ノアはまったく以って勇ましい。
 ノアはバッシュとは違う人間だ。それが、バッシュにとってノアが自慢の弟であるが所以なのだ。


 「オレさぁ、初詣って大好き」
 行きと同じように玉砂利を踏みしめ、ヴァンは言う。相手を変え、場所を変え、幾度となく初詣に行ったというヴァン。
 「初詣だけじゃなくてさ、正月特有の『初ナントカ』っていうのが好き。『大晦日過ぎたらみーんなリセットされますよ』っての、すっげぇいいと思う。面白いよな」
 言いながらヴァンは、くつくつと笑う。
 「ちっさい頃、オレ、ちょっとだけそろばん塾行ってたんだ。兄さんが通ってて、どうしても一緒に行きたくてさ。オレ頭悪いから、全然できなかったんだけど。でも、読み上げ算は大好きだった。『願いましてーはー』ってフレーズが面白くて、隣の子の肘突きながら、くすくす笑ってた」
 ヴァンはジャンパーのポケットに両手を入れたまま、心持ち顎を上げて「ねがいましてーはー」と節をつけて謳い上げた。
 「それで、新しい計算に移るとき『ごはさんで、ねがいましては』って言うんだ。ゴハサン。破産だぜ、破産。それまでどんなに一生懸命パチパチ弾いてても、『ゴハサンで』って言われたらお仕舞いなんだ。そこで終わり。新しい計算が始まっちゃうんだ。
 オレ、正月がくるとその『ゴハサン』を思い出してさ、可笑しくなんの。年の瀬だ、大掃除だ、大晦日だって言っても、年明けたら『ゴハサン』になっちゃうんだもん。めでたいよな。オレ、だから正月って大好き」
 冬の空気の中、ヴァンが白い息を吐きながら「ごはさんでー、ねがいましてーはー」と嬉しそうに言う。
 ヴァンが「破産」と「破算」を勘違いしていることはすぐに分かった。けれどバッシュは、それを正そうとは思わなかった。そんな瑣末なことで、ヴァンの気持ちを害したくはなかった。
 「御破算で、願いましては」。なんてめでたい言葉だろう!
 石畳の上を、まるで蹴り石でもするかのようにステップを踏んで鳥居をくぐり、ヴァンは「あっ」と思い出したようにバッシュを振り返った。
 「そうだ、帰りにパンネロんちに寄ってって。赤飯あるから」
 「赤飯?」
 なんでそんなものが? 視線で問うと、ヴァンは「うーんと」と半分上の空で答えた。
 「お祝い。明日、兄さんの成人式だからさぁ。明日じゃ食べるヒマないだろうってんで、今日作ってんだって。オレ、どうせなら栗おこわが良かったんだけど、パンネロ、お祝いなんだからお赤飯でしょー!って張り切っちゃってさ。さっき取りに来たら、まだだから30分待ってって言われたんだけど。どうせバッシュにもやるつもりだろうから、一緒に行こうと思って」
 「成人式? レックスが? もうそんな歳なのか」
 バッシュが初めてレックスと会ったとき、彼はまだ高校生だった。どこかあどけなさを残していた少年を思い出し、年月の流れにバッシュは感嘆の息を漏らした。
 そんなバッシュの態度に、ヴァンはどこか不機嫌そうな顔をする。
 「ハタチって言っても、大したことないよ。オトナって言ってもさ」
 ヴァンの不機嫌をバッシュは微笑ましく思う。彼が兄をどれだけ敬愛しているか、誇りに思っているのか、バッシュは知っている。しかしそれとは別に、一足先に大人になる兄は、子供じみた独占欲や自尊心を傷付けるものでもあるのだろう。
 バッシュにとっても、少年とばかり思っていたレックスが成人を迎えるのは少なからず衝撃的だった。
――レックスが、成人式か……。
 思いながら、一人の少女に思いを馳せる。
 彼が明日成人式ということは、同い年であるアーシェも成人を迎えるということだ。
 アーシェは、バッシュが2年前、辞職を余儀なくされた会社の社長令嬢だった。彼女は早生まれでまだ19歳のはずだが、誕生日は間近だ。忘れずに、祝いの手紙を出さなければならない。
 一度だけ、ウォースラを通じて彼女に手紙を出したことがあった。アーシェはすぐさま封を解き、読み終えるとその場でビリビリに破いてしまったそうだ。
 手紙の内容に憤慨したのではない。本当はすぐにでも破きたかったのに、読まずに破くことは彼女の矜持が許さなかったのだ。
 二十歳の誕生日を祝う手紙を送ったところで、それが無事に済む確証はない。彼女はまだバッシュを許してはいないだろう。けれど、彼女は常に誇り高い。彼女は自身のプライドにかけて、一度は必ず目を通してくれるはずだ。ならば、手紙を出す価値はある。
 せめて破きやすいように、便箋は薄く柔らかい紙にするべきだろう。
 そこでふと、アーシェは封筒も一緒に破いたのかという疑問が頭に浮かんだ。これは是非ともウォースラに尋ねておかねばならない。
 ウォースラ。
 バッシュは心の中でもう一度呟いた。
 正月ばかりは本家に顔を出さなければならない。心から憂鬱そうに言っていた彼とは、昨年末から連絡を取っていない。日数にすると1週間以上経つ。
 そうだ、とバッシュは思い立つ。ウォースラに電話をしよう。もう実家から帰っているかもしれない。もしそうなら、約束を取り付けて会おう。久しぶりに、ウォースラと会おう。
 そう思った途端、バッシュは心が浮き立つのを感じた。そして、同時に可笑しくなる。
――なんだ、オレはウォースラに会えなくて寂しかったのか。
 めでたい奴だ、バッシュは自分をそう思った。
 ヴァンはふらふらと縁石の上を歩いている。笑みながら、その背中に話しかけた。
 「ヴァン、大通りに出よう。さすがに手ぶらでは行けない。パンネロに、ケーキでも買って帰ろう」
 「オレの分も?」
 「もちろん」
 やった! ヴァンはそう叫んで、縁石から飛び降りた。
 ピョンピョンと飛び跳ねるヴァンを見て、レックスのために焼き菓子でも持たせてやろうとバッシュは思った。この調子では、レックスの口に入る前にヴァンが平らげてしまいそうだが、それもいいだろうと思う。めでたいことは分け合うべきだ。
 先を歩いていたヴァンが、思い出したようにバッシュの隣に並んだ。肩をぴたりとバッシュの腕に押し付け、内緒話のようにぼそぼそと呟く。
 「バッシュ、オトートに赤飯食わせてやれよ。正月からしかめっ面で仕事に行ってて、あいつ、ちっともめでたくないよ」
 ヴァンの言葉に、バッシュは声を上げて笑った。「肝に銘じて食べさせよう」、そう約束し、バッシュはもう一度くすくすと笑った。
 赤飯は食べさせても、ノアには「御破算」の話はしないでおこうと思った。
 神を畏れ、毎日のようにせっせと魂の負債を払い続けているノアに、「御破算」の話はあまりに残酷だ。ノアは救われるべきだが、それはノア自身にであって神ではない。
 せっせと返済をしているノアより、滞っているバッシュのほうが楽しく生きているだなんて不公平な話だ。
 しかし、どこの世界を見ても、地獄の使者は勤勉であるらしい。彼らはきっと、バッシュが帳簿をつけるまでもなく、支払わねばならないものはきっちりと取り立ててくれるだろう。
 それを思うだけで、バッシュは心安く暮らすことができる。
 「赤飯が楽しみだな」
 バッシュは隣のヴァンに微笑んだ。


[ 2007/01/08 ]
PR
Comments
Post a Comment
Name :
Title :
E-mail :
URL :
Comments :
Pass :   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
ブログ内検索
メールフォーム
最新CM
(01/27)
(08/27)
(05/23)
(09/24)
(09/18)
Template by mavericyard*
Powered by "Samurai Factory"
忍者ブログ [PR]